32歳、独身、彼氏なし。
結婚相談所で知り合ったS原さんと二度目のデート!二人で話した結果、まずは最近出来た水族館に寄ることにしました。
水族館ってなかなか行く機会がないですよね。魚は嫌いではないのですが、小学生のときの写生会で行ったっきりのような気がします。お話を聞くと、S原さんはもっと事情が込み入っているようでした。
なんでも、小学生のときに可愛がっていたメダカがトラウマなのだそう。一生懸命飼育していたのに、死なせてしまってとても悲しかったとのこと。それからは、なかなか水族館に行く気にはなれなかったのだそうです。現在はそのトラウマを克服されたとのことだったのですが、きっかけとなる出来事がとてもユーモラスで思わず笑ってしまいました。深海生物の展示コーナーに差し掛かったとき、
「シーマンってご存知ですか?」
とS原さんは少しバツが悪そうにおっしゃいました。名前だけは聞いたことはありますが、よく思い出せません。深海生物の名前なのでしょうか。
「深海生物ですか?」
「あの、ペットです」
「え?」
「いや、ゲームなんですけどね・・・」
S原さんはさらにバツが悪そうにしています。水族館の生き物に関するゲームで、シーマンといえば・・・。
「あ! 思い出しました!」
私がまだ学生の頃、「シーマン」という人面魚のゲームが大流行したのを思い出しました。今でこそリアルなCGグラフィックは広く世間に知られていますが、その当時はまだとても珍しかったのですよね。人面魚という突飛なう設定とも相俟って、テレビや雑誌などでも特集を組まれていたような気がします。
「す、すみません!」
とS原さんがしきりに頭をかいて謝るので、私は「いえいえ!」と思わず吹き出してしまいました。
「シーマンでめだかのトラウマを克服されたんですか?」
「そうなんです。シーマンって見た目はあまりかわいいものではないんですが、ふてぶてしさに人間味があって、とても癒されたんですよ」
「ゲームってあまりしたことがないんです」と私が言うと、S原さんは「僕も最近はあまり」とおっしゃいました。
「仕事、忙しいですもんね・・・」と私はついつい自分の溜まった仕事を思い出して暗くなってしまいました。仕事は楽しいけれど辛いものです。人生はまるでずっと実力テストを受けているようなもの。緊張と不安の連続で、気の休まるときがありません。
「人生の勝者っていうのは、楽しんだモン勝ちだ」
「え?」
S原さんの言葉に、私は顔を上げました。
「・・・ってシーマンが言っていたような気がします」
「・・・深いですね」
「でしょう、意外と」
「ええ、意外と」
S原さんと私は、顔を見合わせて笑いました。