あれから3年経ち、私は35歳になりました。
あの後、S原さんからのプロポーズを勿論承諾した私は、S原さんと一緒に結婚相談所を退会しました。
もちろん、それでゴールというわけではありませんでした。人生の春だったことは確かですが、それと同じくらい大変だったのもまた事実です。両家の顔合わせや挙式披露宴の会場決めなど、話し合わなければならないことが本当に数多くありましたね。
「結婚はゴールではなくスタートである」とよく言われます。私もその通りだと痛感しました。結婚は生活の延長上にあり、ずっと続いていくものです。ですからきっと、みんな結婚を決めてからが大変なのですよね。
結婚をすると、責任が増します。一人で暮らしていたころは「なあなあ」になっていたようなことでも、家族のことを考えるときちんとやらなければなりません。とくにご近所づきあいというものは、バカにできません。人は一人では生活していけないのですよね。守るものが家族となれば、なおさらです。
ご近所のみなさんとはよくご挨拶をするようになりました。そこそこに都会の街に住んでいますから、今まで人とすれ違ったら会釈をするくらいで終わっていたのが、今は立ち話をすることもあります。
独身時代は、自分に余裕が持てなかったこともあって、人との関わりをわずらわしく感じていたこともあります。でも、ご近所の方とゴミだしの時などでお話をすると、とっても楽しいんですよね。
考えてもみてください。仕事などの利害関係を抜きにして、年代・性別の違う人たちとお話をする機会なんてそうそうないんですよ。季節ごとの話や近所のスーパーの話、昨晩の月が美しかったことなど、思い返してみれば本当に他愛のない話題なのですが…。会話をすることの楽しさったらありません。そんな人としての原点を思い出させてくれたのも、S原さんと結婚したからこそです。
イギリスの有名なことわざに、「結婚をすると、喜びは二倍に、悲しいことは半分になる」というものがあります。共に生活をして同じものを見ていくことで共に苦難を乗り越えていけますし、楽しさを共有できるのですよね。
また、生涯のパートナーとは、どこまで寄り添っても血を分け合うことはできません。ある意味で、血以上の濃い関係を築くことができるのが結婚なのではないかと思ったりもしています。そして、その愛する人の子供を産み育てることはとても素敵なことだな、としみじみ思う毎日です。
「やだー!」
日曜の夕暮れ時、お風呂からただをこねる子供の声が聞こえます。
「やじゃないでしょ、お着替えするよ」
S原さんが困ったように子供をなだめています。結婚して1年が経った頃、私たちは子供を授かりました。S原さんによく似た女の子で、よく笑いよく寝る子でしたね。
始めての育児は慣れないことも多かったけれど、S原さんと一緒だから乗り越えられた気がします。子供はあっという間に大きくなりますね。もう2歳になり、主張が激しくなってきました。
独身のとき、私は外の景色をあまり見ていなかった気がします。それは多分、自分自身にいっぱいいっぱいだったから。周りが見えていなかったんですよね。S原さんと出会って、夜景の美しさや季節ごとの楽しさを知ることができました。そしてS原さんと結婚して子供を産み、さらに視野が広くなったような気がしています。
「ママー! 助けてー」
S原さんが途方にくれた声で私に助けを求めてきました。今日は休日ということもあり、S原さんはずっと子守をしていてくれました。イクメンというほど気取ってもいないけれど、S原さんが育児参加をしてくれて私は大変助かっています。今以上に困難なことは沢山あるでしょう。でも、きっとS原さんとなら乗り越えていけると思うのです。
「今行くよ~」
私はバスタオルを手に持ってお風呂に向かいました。S原さんと、S原さんにそっくりな愛娘の笑顔に会うために。
あのとき、同僚に誘われて結婚相談所に行っていなければ、S原さんには出会わなかったのだろうと思います。縁というのは不思議なものです。これからもずっと、この縁が続いていくことを信じて、毎日をがんばっていきます。
【完】
▼【婚活物語】32歳独身OLの婚活ストーリー 全10話
【第一話】32歳、独女。婚活パーティに行きましたが失敗しました
【第二話】32歳、独女。結婚相談所の資料を見てやる気が出ました
【第四話】32歳、独女。結婚相談所で知り合った異性と会いました
【第六話】32歳、独女。結婚相談所で出会った相手と二度目のデート
【第八話】32歳、独女。婚活相手とデートを重ねて毎日幸せです
【第十話(最終話)】あれから3年、私は毎日楽しく暮らしています
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